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お互いの心を寄せ合う コミュニケーション術

HORTON 現任者研修
第11回「接遇マナー研修」
お互いの心を寄せ合う コミュニケーション術


福祉サービス提供者にとってサービスの質を高めることは不可欠。さらに、より質の高いサービスを提供し続けるためには、そこに接遇マナーが伴っていなければなりません。
そこで今回は元東京ディズニーリゾートの研修講師によるディズニー流「接遇マナー」の解説をもとに、接遇の基礎知識から「相手の心に寄り添う」コミュニケーションについて、豊富なワークを交えて学んでいきます。

「接遇」とは、利用者・家族に 安心感を抱いてもらうこと

「接遇」とよく似た言葉に「接客」があります。両者の違いは、「接客」が単に相手(お客さま)と接して「対応する」であるのに対し、「接遇」では接する相手を「もてなす」「思いやりをもって対応する」という意味合いが強くなる点です。これをふまえ、はじめに介護・福祉における「接遇」について確認してみました。
「客観的にみて、ディズニーと介護・福祉の仕事には共通点が多い」と講師の石坂秀己先生はおっしゃいます。石坂先生は東京ディズニーリゾートでの接遇マナーの観点から、福祉・介護の目的は「利用者・家族の満足」であり、そのためには「(利用者・家族が)どうしたいのか、どうしてほしいのかを言える」こと、さらに「安心感を抱いていただくことが必要」だと定義しています。そしてこの「安心感を抱いていただく」という考え方は、ディズニー流「接遇マナー」において最も重要な部分です。

何を要求されても ポジティブに捉えること!

さて「接遇」についての定義をおさえたところで、早速グループワークに移ります。参加者は2人一組の2チームに分かれ、ペーパータワーゲームに挑戦しました。これはA4サイズの紙を使って、いかに他のチームより高いタワーをつくれるかを競うゲーム。まず8分間の作戦タイムが与えられ、チームで話し合いを行います。その間、触ってよいのは紙一枚のみ。紙は折ることだけが許されます(切ったりするのはNG)。そして迎えた本番。制限時間はなんとたったの1分間! 今度は1チーム40枚まで紙を使うことができます。両チームとも作戦にしたがって2人で協力しながら紙を積み上げていきます。しかし、あっという間にタイムアウト。「ええ、もう終わり?」というのが正直なところ。なかなか思い描いたような高さに積むことはできませんでした。でも「それでいいんです」と石坂先生はおっしゃいます。そして、このゲームを通して、本研修のルールについてこう説明します。
「『やってみてください』と言われたことに対して、ネガティブな感情を抱いたり、言葉を発したりしないこと。何を要求されてもポジティブに捉えるようにしてください」
たしかに難しいと思うと、本当は大して難しくもないことも難しく感じてしまうもの。「失敗から得られるものは多い」という石坂先生の言葉からも、まだやったことないことにトライしてみようという、前向きな気持ちが湧いてきました。

「いらっしゃいませ」ではなく 「こんにちは」でゲストを迎える

ディズニーにおける「接客」には独自のルールがあります。その中のひとつが「あいさつ」です。例えば、東京ディズニーランドのキャスト(スタッフ)はゲスト(お客さん)に対して「いらっしゃいませ」ではなく、必ず「こんにちは」とあいさつをするそうです。その理由は、キャストから「いらっしゃいませ」と言われると、ゲストがあいさつを返しにくくなるから。たしかに「こんにちは」に対してなら「こんにちは」と返答しやすい。なるほど、これには目からウロコが落ちました。こうすることで、キャストとゲストとの間にコミュニケーションが生まれ、安心感につながりやすい。ディズニーにおける「あいさつ」の一番の目的とは、ゲストに安心感を抱いていただくことなのです。
日常生活で私たちは「あいさつ」をすることが義務化されてしまい、そもそも何のためにするのかを忘れてしまいがちです。一方、ディズニーでは「常にゲストを優先する」という大原則のもと、「あいさつ」はあくまで「ゲストに安心感を抱いていただく」ものであるという明確な意味づけを行うことで、手段が目的化してしまうことを防いでいます。そしてすべてのキャストは、接客の際に何を優先すべきかの判断基準を常に「ゲスト」としているからこそ、めざす方向がぶれることなく、ゲストに対して徹底したサービスを行えるのだそうです。それに同じメンバーが同じ方向を向いて進んでいるときというのはとても楽しいもの。冒頭で行ったペーパータワーゲームで味わった8分間の作戦会議のワクワク感がまさにそれでした。

「褒める」行為は人を笑顔にし 前向きな気持ちにさせる

相手に安心感を抱いていただくために欠かせないのが「笑顔」です。ディズニーのキャストは就業前に必ず10分間の笑顔のセルフチェックを行っているそうです。
そこでこれにならって私たちも笑顔チェックを行ってみました。

素敵な笑顔をつくるためには、以下の4つのポイントがあります。

1.月目
2.頬をキュッと上げる
3.上の歯だけを見せる
4.シンメトリー

これらを意識しながら、まずはペアになって1分間、そして今度はグループでひとりがみんなに笑顔を振りまき、他のメンバーみんなでその人のことをほめていきます。ここで大切なのは、褒められたことに対して否定せず、すべてを受け入れること。これは「自分」がどう思うのではなく、「相手」が自分の笑顔にどう反応するのかを確かめるのがねらい。この「自分」ではなく「相手」という観点こそが「接遇」の基本というわけです。
また石坂先生はこうもおっしゃいます。
「笑顔はつくるものではなく、なってしまうのが理想。人は褒められると思わず笑顔になってしまうもの。つまり褒める行為は人を前に向ける効果があるのです」
ちなみに、ディズニーではキャスト同士が褒め合い認め合うことも仕事の一環と位置付けられています。人を褒めることを積み重ねていくことで人生は豊かになり、周りの人たちの幸せにもつながっていくという思いからです。

「あいさつ」で最も大切なのは 100%相手に気持ちを向けること

次に「あいさつ」について深く掘り下げてみました。石坂先生によれば、あいさつをした際に起こる心の交流というのは、握手をした時の感情とよく似ていると言います。そこで参加者は再びペアになり、試しに握手をしながらあいさつをしてみて、実際にどんな感覚だったのかをそれぞれ発表してもらいました。
「握手をしながらあいさつをされると、相手が自分のことを考えてくれているんだなぁと感じます」(Jさん)
「握手は相手からも握り返してもらって初めて成立するもの。(介護の場面では)スタッフからの一方的な握手ではやはりダメな気がしました」(Yさん)
「(握手は)さりげなく、自然であるのが原則。そして握手をすること自体を目的にしないことが大切ですね」(Sさん)
「(握手を通して)相手からリアクションが戻ってくることで関係性が築きやすくなります」(Wさん)
それらをふまえたうえで、次に先生からこんな質問が。
「握手をしなくても、そうした心の交流が起こるようなあいさつの仕方とはどんなものか?」
これについてもさまざまな意見が出ました。
「握手をしたときと同じくらいの時間をかけて、相手の反応をしっかり待ってあいさつをする」(Yさん)
「満面の笑みで相手としっかり目線を合わせる」(Jさん)
「声の質、やさしい声、相手との立ち位置を意識する」(Sさん)
笑顔、目線を合わせる、立ち位置などを意識することは、確かにあいさつをする際には重要なことですが、石坂先生からすれば、それでは手段が目的になってしまうのだと言います。大切なのは「どんなあいさつをするのか」ではなく、「どんな気持ちであいさつをするのか」なのだそう。あいさつで最も大切なのは、100%相手の方に気持ちを向けて、そのうえで数ある選択肢の中からあいさつの手段を選ぶこと。あいさつの場合でも原則は「相手が優先」ということなのですね。

「聞く」と「伝える」 2つのスキルを磨く

あいさつともうひとつ「接遇マナー」において重要なコミュニケーションについても学びました。
コミュニケーションを構成する要素は、70%が表情や態度といった非言語表現で、言語表現は30%だと言われます。しかも、その30%言語表現のうち言葉そのものはたったの5%で残りの25%は声の質など。つまり言い換えれば、相手とのコミュニケーションでは、言葉以外の95%にその人の本音が現れてしまう。言葉ではなく、いかに心の部分が大切なのかがよく分かるデータですね。
石坂先生はコミュニケーションの具体的な手段として「聞く」と「話す」の2つを挙げています。ここで再びワークを行いました。
まずは「聞く」。ペアのひとりが自身の悩みについて話し、聞き役が相手の話をおうむ返しして話します。ところが、これが上手くいかない。おうむ返しが原則なので、少しでも相手の話した内容と違えば「いいえ違います」と容赦なく話は中断。いかに普段から人の話を聞いていないかがよく分かります。
すると先生が、相手の話を上手に聞くためのコツを伝授。それは相手が言ったことを言語ではなく、映像化すること。そして、実際の場面で大切なのは、相手の話を正確に聞き取ることよりも、相手の人が自分の話を一生懸命に聞いてくれている姿勢が伝わることだと言います。テクニックに走るのではなく、自分の心のあり方を大事にすること。そうした気持ちが利用者さんやその家族に伝わるようにしてほしいというのが先生の願いでもあると言います。

次に「伝える」。こちらもワークを交えます。
今度はひとりずつ1分間も自己紹介をし、他の人が話し方について良かった点、もう少しこうした方が良い点を指摘。これを2周繰り返します。ここで大切なのは、とにかく相手を褒めること。改善点についても、言われた相手が「自分のことを思って言ってくれているんだ」と思える伝え方を心がけます。
すると全員が1回目に指摘された話し方のクセなどが2回目にはきちんと改善され、生き生きとした表情で語りかけていました。
聞き手側は話している人の味方であるという姿勢で、どうやって返答したら相手に喜ばれるかを考え、話し手側はどんな話し方をしたら相手に気持ちが伝わるのかを考える。そうしてお互いの心を寄せ合うことからコミュニケーションが生まれることを実感できる貴重な体験でした。

全11回の研修の終わりに

昨年から始まったHORTON現任者研修の第1期は今回で最終回を迎えました。今回のテーマである「接遇」は、結果としてこれまでの全11回の研修を総括するような内容でした。
以下、参加者の感想を紹介します。
「もともと今回の『接遇』で学んだような内容には一番思い入れがあったんです。以前HORTONの内部研修で『笑いの連鎖』をテーマに取り上げたことがありました。喜怒哀楽の感情は連鎖する。だからこそ、いつも現場では良い感情の連鎖が起こってほしいと願っているんです」(Sさん)
「『接遇』とはこの仕事だけでなく、すべてのことにつながるんだと思いました。また、第1期の企画制作担当として全11回の研修にかかわり、みなさんのこともよく分かりました。ポジティプなエネルギーとともに、横のつながりができあがっていることを実感しています」(Wさん)
また、この研修では毎回テーマに沿った内容を学ぶと同時に、スタッフ間のよき交流の場にもなったようです。
「他のスタッフや会社と情報共有して現場に行けるというのはとても強みになるので、毎回楽しみしていました」(Yさん)
「HORTONにはこれからも利用者さんとの関係も含めた横のつながりを大切にする会社でいてほしいです。それもすべて今回の研修の内容につながっていました」(Jさん)
HORTON現任者研修も第2期目からはスタッフだけでなく、外部の方も含めたみんなで作っていく研修にしていきたいと思っています。再開の日程については未定ですが、詳細が決まり次第、HORTONのホームページ等でお知らせいたします。
まずは一年間ありがとうございました。

 

公開日 : 2022-6-6 ホートンの研修

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