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今でも繋がる色褪せない思い出

先月携帯の着信履歴に懐かしい名前があった。嬉しくなって、落ち着いた時間を見計らって掛け直した。
20数年前に初めて関わったALSの利用者さまの奥様からの電話だった。
以前から度々連絡をくれていたけど、コロナ前から数年ご無沙汰していた。失礼ながら思い出してもなんとなく連絡しづらくなって、そのままにしていた。

電話のコールが数回鳴って、聞こえてきた声は全く変わらなくて安心した。
「齋藤さーん。ごめんねー。齋藤さんが当たっちゃったんよー。付き合ってねー。」 (笑)
ご無沙汰してます。元気そうな声聞いて安心しましたと話し始めた。
「齋藤さんのことは絶対忘れられないんよ。
つつじさんつつじさんと名前言って(旧姓がつづきなのだがお花が好きだったからか?つつじさんと呼んでくれていた)、随分連れ回してしまったよね。ごめんねー。」
毎回変わらず感謝の言葉をかけてくれて嬉しいのだけど、後ろめたさも同時に感じて、なんとも言えない気持ちになる。
本当に介護の右も左もわからない頃、何気ない会話とか、上手くパソコン操作が出来る手伝いをしているのが、ただただ楽しかっただけだったから。お役に立てていたのかどうかもよく分からなかった。
でも、もしかしたらそれが良かったのかもしれないなぁと、久しぶりの奥様との電話でそう思うようになった。
あの頃のやりとりは、今でも色褪せない宝物だ。

その人は、定年になってからALSを発症して広島の病院を転々とした後、東京に住んでいる娘さんが呼んで、ご夫婦で北区に住んでいた。

最初の頃は、私もヘルパーという立ち位置に戸惑いお互いにどうしたらいいのかよくわからなくて、奥さんが外出すると、ご本人は途端にたぬき寝入りをし始め、私もただ傍らに座っているだけの時間が過ぎていった。

ある日、パソコンをしたいと言われてパソコンのセッティングをすると、文字を打ち間違えながらも書いてくれたのが「あなたのこきょはどこですか」恐る恐る聞いてみた。
「これ、私に聞いてくれてるんですか?こきょって…なんですか?」
「みやこのこと。ふるさと」と書いてくれた。
「あー、古郷?住んでる所ってことですか?」
ノリに合わせて、寅さん風に言ってみた。
「わたくし、生まれも育ちも東京の小金井市」
と言ったら、大黒様のような笑顔で返してくれたのは、今でもよく覚えている。
それから、気分を良くしたSさんは、パソコンで歌を歌い出した。
普通ならパソコンで文字を打っているので、歌詞を書いたと書くのだけれど、歌を歌い出したが正しいのだ。
不思議だけど、その位パソコンに並べられた文字から音のリズムを感じたということ。
なんの歌だったのかは、さっぱりわからなかったけど…。とにかく気持ちよさそうに歌っていた。
それからは、冒頭の奥さんが言う通り、
「つつじさん、ばらをみにいきましょう」
「こうやさんたのしかったよ。こんどはつつじさんもいっしょにいきましょう」
「おてらにいこうよ」といろんなところへ誘ってくれた。
Sさんは本当に懐深くてみんなに愛されていたから、名前を書いて誘ってくれるのを見た看護師さんから、「ちょっとSさん、なんでつづきさんばっかり誘うのよ~、ご指名?私も誘ってよ~どこでもついていくわよ~」とホステスさんばりの口調でからかわれて、ハッハッハーと笑っていた。
奥さんがそんなやりとりを見て、「いきましょうって自分が連れて行くみたいに誘ってるけど、あんたが連れて行ってもらわないかれんのよ、えらそうにしてから。つつじさんにお願いしなくちゃいけんのよ。行ったらこれで何かこうたんさい!」とご本人に小銭を持たせてくれて、外出先でSさんが手に持たされた小銭で、缶コーヒーをご馳走してもらった。
寒い日は買ったばかりの缶コーヒーでSさんの手を温めてから、コーヒーをいただいた。自動販売機の前で、コーヒーを一気飲みしていたヘルパーを見て、Sさんは何を思っていただろうか?

今年も駒込駅のつつじは、満開でした。つつじの花を見る度にSさんとの楽しい時間を思い出します。

2022.6.6 C.Saito

公開日 : 2022-6-7 ホートンブログ

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